ぶらり歩き

8. 町田市 境川源流探索                               平成19年8月18日

 友人O氏と相模原市と町田市の境界を流れる境川の源流を訪ねた。5年前に、相模原市の橋本から藤沢市の江ノ島までを境川に沿って歩いたときから、その源流を訪ねてみたいと思っていたが、今回、O氏の道案内でやっと実現することができた。連日30度をはるかに超える猛暑が続いていたが、今日は幸運にも30度を切り、涼しさも感じられる絶好のウォーキング日和である。

 境川はJR橋本駅の近くでは、かつて秩父地方から大山参りをする人々が身を清めるための精進場としてその清流が利用されていた。また、数十年前までは大雨に見舞われるたびに氾濫を繰り返す暴れ川で、流域の住民にとっては甚だ迷惑な存在であったという。そのため、氾濫により川筋が変化し、蛇行した川であった。その名残は境川が相模原市と町田市の境界をなすにもかかわらず、JR相模原駅付近の一部では境川を越えた町田市側が相模原市の飛び地となっている。これはかつて境川が町田市側を流れていたことを示すものである。この逆のケースもある。しかし、最近、河川整備が進められ、河岸は人工的なコンクリートブロックで覆われ、自然の摂理としての昔日の暴れ川の面影をとどめていないのは、流域の住民の方には叱られてしまうが、味気なく、寂しい思いにもなる。

 境川源流は町田市西端の大地沢地区にあり、町田市最高峰の草戸山(標高364m)等の山々に囲われ、大地沢青少年センターとして都民にキャンプ場、ホタル観察、星空観望などの、都会では体験できない野外活動の場を提供している。この日も、夏休みを利用した大学生のグループ、子ども会、家族連れ等が炊事、テントの設営の準備をする姿が見られた。
 
 青少年センターを過ぎて境川の細い流れに沿って木々に覆われた山道(写真1)を進み、沢状となった境川と交差する地点に境川源流地と書かれた木製の碑(写真2)が立っている。昨夜降った雨のためか、源流地点よりも上の方から水が流れてくる。鶴見川源流は地下からこんこんと水が湧き出る場所でわかりやすかったが、境川は沢の途中に源流地点があり、疑問を感じなくはない。そのため、もう少し上のほうに源流の湧き出し地点があるのではないかと思い、沢伝いに少し登ってみたが、足場が悪く、途中で断念してしまった。説明板には、武蔵国相模国の境界をなす川であったため、境川と名づけられたとあり、多磨丘陵と相模台地を区分する断層線上にある全長52kmの二級河川と書かれている。断層線という記述が気になり、活断層の書物を調べてみたが、この辺りには活断層線は引かれていなかった。

 源流を後にしてもとの山道を戻ると、行くときには鳴いていたのかどうか気付かなかったが、木々に止まった蜩(ひぐらし)の鳴き声がまるでリレーのように先回りをして我々の帰りを見送ってくれる。鳴き声は左右の木々から聞こえ、まるでステレオで合唱を聴くような立体感があり、いつまでも耳に残る、忘れられない響きである。

 源流から里に下り、大地沢青少年センターの入口の三叉路に雨降地区の地蔵尊(写真3)が小屋の中に大切に祀られて、今日も花が手向けられている。説明板によると、子育て地蔵尊として嘉永3年(1850年)に安置されたもので、子宝、イボ取り地蔵としても親しまれてきたという。また、この道は甲州道の抜け道として利用されたようである。

(1)境川源流の遠望 (2)境川源流の碑 (3)雨降・地蔵尊
境川源流の遠望の写真
境川源流の碑の写真
雨降地区の地蔵尊の写真


 町田街道に近いところに大戸観音堂(写真4)がある。鎌倉、鶴間、小野路を通って高崎に抜ける鎌倉街道上道があるが、鶴間で鎌倉街道上道から分岐して相原、大戸を通り、秩父、高崎に向かう道を鎌倉街道山之道と呼び、大戸は大木戸番所が置かれたことに由来する地名であるという。観音堂は慶長元年(1596年)に創建され、当時から大戸の観音様と呼ばれ、門前には旅籠、居酒屋が建ち並び、観音堂の鐘楼は大戸の晩鐘と歌われたという。

 更に道を下っていくと、戦国時代の大永5年(1525年)の創建と伝えられる川尻八幡神社(写真5)がある。参道両側の松並木は神社の由緒を感じさせる老木であるが、江戸時代には並木八幡と呼ばれていたという。本殿(写真6)は宝暦10年(1760年)に再建されたものである。境内には古墳の石室(七世紀前半)もあり、古代より鎮守の森、神が宿る聖域として人々に信仰されてきたという。大例祭には白装束に身を固めた若者が担ぐ御輿が練り歩き、昔は御輿同士がぶつかり合いをしたという勇壮な祭りであったという。

 21世紀は水の世紀とも言われるが、水は人々の生活に不可欠であり、源流というのは生命の源のような印象を受ける。その始まりは頼りない水量で、流れもたいしたことはないが、流れ下るにしたがって勢いを増し、人をはじめ多くの生物が水を求めて集まり、生命を育んでいく無限の力を水は持っている。
 

(4)大戸観音堂・鐘楼 (5)川尻八幡神社 (6)川尻八幡神社・本殿
大戸観音堂の鐘楼の写真
川尻八幡神社の写真
川尻八幡神社本殿の写真

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